イオン・プロダクション製作ではなく、コロンビア映画『007/カジノロワイヤル』(1967)のあらすじとキャストなどを徹底解説!
映画『007/カジノロワイヤル』(1967)の解説・見どころ
版権が唯一、製作会社イオン・プロダクションになかったイアン・フレミングの第1作「カジノ・ロワイヤル」をプロデューサーのチャールズ・K・フェルドマンが、コロンビア映画で映画化したパロディ作品。
映画化権を取得したフェルドマンは、ケーリー・グラント主演、ハワード・ホークス監督で映画化を試みるが失敗。イオン・プロダクションが製作した「007」映画シリーズが世界的に大成功したことから、イオン・プロダクションと共同製作を試みるがこれも交渉不成立に終わる。ショーン・コネリーに出演を依頼するが、ボンド役に続けて出演することを嫌い断られる(100万ドルのギャラを要求)。
これらの交渉不成立から、フェルドマンは本来のスパイ映画ではなく、オールスターを招いての壮大なパロディ映画に方向転換することを決意。
主演は、原作者のイアン・フレミングの友人でもあるデヴィッド・ニーヴンを迎え、隠居久しい老ボンド卿という設定に変更。引退したジェームズ・ボンド(デヴィッド・ニーヴン)が、諜報部員ヴェスパー・リンド(ウルスラ・アンドレス)に2代目007に適した人物をスカウトすることを依頼し、ピーター・セラーズが2代目007として大活躍する作品となるはずだった。
当時、出演作品が立て続けにヒットしていたピーター・セラーズは、敵役ル・シッフルを演じるオーソン・ウェルズが自分より大物に扱われ大きな不満と恐れを感じていた。オーソン・ウェルズと同じ画面に映ることを拒否、別々に撮影し編集することをプロデューサーのフェルドマンに要求するが、猜疑心の強いピーター・セラーズは、オーソン・ウェルズに対する恐怖心が次第に大きくなり、撮影をボイコットするようになる。結局、出演を降板してしまう。
困ったプロデューサーのフェルドマンは、新たに『ジェームズ・ボンド卿が何人もの諜報部員に007を名乗らせ敵を混乱させる。また敵の大ボスはジェームズ・ボンド卿と血の繋がった意外な人物であった』と設定を変更。数多くの監督、脚本家が制作に参加したため、予算がエスカレーターし、俳優たちからも不満の声が上がるようになった。
設定を無理やり何度も変更したため、不自然な展開(ピーター・セラーズが突然カーレイサーの衣装で登場したり、デヴィッド・ニーヴンがスメルシュ本部から脱出する場面で突如逃げるキャラクターが増えたり、ラストシーンではピーター・セラーズだけ別カットなど)のコメディ作品となったが、公開された1960年代はサイケデリックブームであり、実験的な作品が登場していたことから、かえって観客からはアヴァンギャルドなコメディ作品として受け入れられた。
1999年以降、『007/カジノロワイヤル』(1967年)の権利は、イオン・プロダクションの公式ボンド映画の配給会社であるメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)が保有している。
映画『007/カジノロワイヤル』(1967)のあらすじ
映画『007/カジノロワイヤル』(1967)予告編
映画『007/カジノロワイヤル』(1967)のあらすじ
20年前に英国秘密情報部MI6を引退し豪勢な邸宅にひっそりと暮らし薔薇の栽培とドビッシーの音楽を愛する往年の名スパイ、ジェームズ・ボンド卿(デヴィッド・ニーヴン)のもとへ英国秘密情報部主任Mことマクタリー(ジョン・ヒューストン)、CIAのランサム(ウィリアム・ホールデン)、KGBのスメルノフ(クルト・カッツナー)、フランス情報部の幹部ル・グラン(シャルル・ボワイエ)が訪れてくる。彼らの話では、世界各地で英米の秘密情報部員が次々と行方不明(スメルシュのスパイ撲滅作戦B)になっていた。現場に復帰して調査をして欲しいと依頼されたジェームズ・ボンド卿だったが、ボンドは要請を断った。だが、その直後Mの合図によってジェームズ・ボンド卿の邸宅が砲撃され爆破、Mが亡くなってしまう。
ボンドはMの遺品(大切なかつら)を、悲嘆にくれる未亡人フィオナ・マクタリー夫人(デボラ・カー)の元へ返すためにスコットランドへと向かう。しかし、本物のフィオナ夫人は、スメルシュのエージェントであるミミと入れ替わっていた。他のマクタリーの家族も同様に入れ替わっており、スメルシュはボンドの「独身のイメージ」を崩して信用を失墜させようとしていた。
美女たちによるボンドの誘惑は失敗に終わるが、ミミ/フィオナは反対にボンドの魅力に負けて恋に落ちてしまう。彼女は情熱的な口づけを交わしたあと修道院へ向かうのであった。
ロンドンに戻る途中、ボンドはまたしてもスメルシュに命を狙われるが、激しいカーチェイスを逃げ切り生き延びた。
ボンドは秘密情報部MI6のトップに復帰。ボンドは世界中の英国諜報員の多くが美女に誘惑されて、敵のスパイに抹殺されていることを知る。また、初代ボンドが引退した際に「ジェームズ・ボンド」の名を与えられた後継者 “女好き “は除名されて、現在はテレビの仕事に就いたと報告される。
そして彼は、スメルシュを混乱させるために、残ったMI6のエージェント全員にジェームズ・ボンド (007)を名乗ることを命令する。また、女性の魅力に抵抗出来るように男性捜査官を訓練するための厳しいプログラムを作成する。マネーペニー(バルバラ・ブーシェ)は空手の達人であるクープ(テレンス・クーパー)を採用し、誘惑的な女性に対抗するための訓練を始める。
ボンドは、エージェントを引退して大富豪に転身したヴェスパー・リンド(ウルスラ・アンドレス)を雇い、バカラのエキスパートであるイブリン・トレンブル(ピーター・セラーズ)をリクルートして、スメルシュの幹部であるル・シッフル(オーソン・ウェルズ)を倒すために利用しようとしていた。
イブリン・トレンブルは、MI6のボンド訓練所でQ(ジェエフリー・ベイルドン)から秘密兵器が数多く内蔵された特殊装備の説明を受けて、装備を支給される。
スメルシュの金を横領したル・シッフルは、処刑される前に横領を隠蔽するために金を求めて必死になっていた。
エージェントのミミからの手がかりを頼りに、ボンドは疎遠になっていた娘のマタ・ボンド(ジョアンナ・ペティット)に会いにゆく。マタ・ボンドを説得して西ベルリンに渡り、スメルシュのスパイ・トレーニング・センターを偽装したオーペア・サービス「国際家政婦協会」に潜入することを依頼する。「国際家政婦協会」に潜入したマタは、スメルシュの幹部ル・シッフルが使い込んだ組織の金の穴埋めために計画したアメリカ、ソ連、中国、イギリスの軍事指導者の危険な写真を「アート・オークション」で売る計画を発見する。マタは、危険な写真を破棄することに成功する。窮地に陥ったル・シッフルは、カジノ・ロワイヤルでイカサマバカラをして金を稼ごうと画策する。
イブリン・トレンブルは、リンドを伴ってカジノ・ロワイヤルに到着する。早速、トレンブルは魅惑的なスメルシュのエージェントであるミス・太もも(ジャクリーン・ビセット)が仕込んだ睡眠薬入りのシャンパンを飲んで眠り込んでしまう。
トレンブルはリンドによって助けられる。その夜遅く、トレンブルは、カジノで遊んでいるル・シッフルを観察し、彼は赤外線サングラスを使用してバカラに勝利していることに気づく。
リンドは、イブリンがバカラのゲームでル・シッフルを倒すことができるように、こっそりル・シッフルの赤外線サングラスを盗む。
その結果、トレンブルはル・シッフルを倒すことに成功する。
勝利に酔うふたりであったが、リンドはカジノのホテルを出たところを誘拐され、トレンブルも彼女を助けに後を追いかけたが軟禁されてしまう。
ル・シッフルは、トレンブルからバカラで勝って得た小切手を奪うため、トレンブルに幻覚を見せて拷問する。
リンドは、トレンブルを救出する。一方、スメルシュのエージェントはル・シッフルの基地に突入し、スメルシュの金を横領したル・シッフルを射殺した。
ル・シッフルの事件が解決しロンドンを訪れていたマタがスメルシュに誘拐され巨大な空飛ぶ円盤で連れ去られてしまう。修道院のシスターになったミミからマタはカジノ・ロワイヤルに連れて行かれたと知らされ彼女を救出するためにジェームズ卿とマネーペニーはカジノ・ロワイヤルへと急いだ。彼らは、カジノ・ロワイヤルが謎の秘密組織スメルシュの巨大な地下本部の上にあることを発見する。
スメルシュの地下本部でジェームズ卿とマネーペニーは謎の秘密組織スメルシュの首領であるドクター・ノアと対面することになる。
そこに現れたのはジェームズ卿の甥のジミー・ボンド(ウディ・アレン)であった。彼は、元MI6エージェントだったが有名な叔父を怒らせるためにスメルシュに亡命したのだった。ジミーは、細菌兵器を使ってすべての女性を美しくし、身長4フィート6インチ(1.37m)以上の男性をすべて殺す計画を立てていることを明かし、ジミーは世界中のすべての女性を手に入れる “大男 “として生き残ることを計画していたのだ。
ジミーはすでにパートナーの候補である女性(ダリア・ラヴィ)を軟禁しており、彼は彼女に自分のパートナーになるように説得しようとしていた。
彼女は最初拒否していたが、ジミーが見かけも味もアスピリンと同じであるが超小型の原子爆弾が400個含まれた錠剤を見せて自分の素晴らしさを自慢するが、その錠剤を仕舞い忘れてしまう。それを目撃した彼女はジミーのパートナーになることを同意する。
彼女は彼を騙して彼にその原子爆弾の錠剤を飲み込ませ、彼を歩く原爆に変えてしまう。
ジェームズ卿、マネーペニー、マタとクープは、地下本部から脱出し、カジノからジェームズ卿らが脱出しようとしたその時、リンドがジェームズ卿に拳銃を向けて二重スパイであることが発覚する。その瞬間、アメリカからの応援部隊(騎兵隊)が到着し、笑気ガスが爆発しカジノは笑いに包まれて大乱闘となる。さらにアメリカからの第二の応援部隊としてジェロニモが到着し大暴れ、そしてみんなで踊りだす。今度はフランス軍が到着しカジノはメチャクチャに。一方ジミーの体内では原子爆弾が爆発し、しゃっくりを繰り返していた。刻一刻と彼は破滅に近づいていた。やがて最後の原子爆弾が炸裂し、カジノ・ロワイヤルは大爆発する。
その後、ジェームズ卿と彼のエージェント全員が天国に現れ、ジミー・ボンドはただひとり燃え盛る地獄へと堕ちていった。
映画『007/カジノロワイヤル』(1967)作品情報(スタッフ・キャスト)
原題:Casino Royale
製作年:1967年
製作国:イギリス/アメリカ合衆国
製作会社:フェイマス・アーティスツ・プロダクションズ
配給:コロンビア映画
日本公開日:1967年12月16日(土)
上映時間:131分
【 スタッフ 】
製作:チャールズ・K・フェルドマン
監督:
ジョン・ヒューストン
ケン・ヒューズ
ロバート・パリッシュ
ジョセフ・マクグラス
ヴァル・ゲスト
原作:イアン・フレミング「カジノ・ロワイヤル」
007原作小説:長編第1作「007/カジノ・ロワイヤル」の登場人物とあらすじは?脚本:
ウォルフ・マンキウィッツ
ジョン・ロウ
マイケル・セイヤーズ
脚色および追加台詞(クレジットなし):
ウディ・アレン
ヴァル・ゲスト
ベン・ヘクト
ジョゼフ・ヘラー
テリー・サザーン
ビリー・ワイルダー
ピーター・セラーズ
音楽:
バート・バカラック
ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラス
テーマ曲:ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラス「カジノ・ロワイヤルのテーマ」
主題歌:ダスティ・スプリングフィールド「恋の面影」
映画『007/カジノロワイヤル』(1967)のテーマ曲、主題歌は?撮影:ジャック・ヒルデヤード
編集:ビル・レニー
【 キャスト 】
デヴィッド・ニーヴン:ジェームズ・ボンド卿
MI6を引退した伝説の元諜報部員。スメルシュとの闘いに駆り出されることになる。
ピーター・セラーズ:イブリン・トレンブル/ジェームズ・ボンド(007)
カジノ・ロワイヤルでル・シッフルと勝負するためにヴェスパー・リンドにスカウトされたバカラの名手。バカラの本も執筆。
ウルスラ・アンドレス:ヴェスパー・リンド/ジェームズ・ボンド(007)
英国秘密情報を引退したが、税金の滞納を帳消しにする代わりに、強制的に現役復帰させられた。
オーソン・ウェルズ:ル・シッフル
謎の秘密組織スメルシュの幹部(資金管理担当)。スメルシュの組織から横領した金を返済するためにバカラで必死に勝とうとする。
ジョアンナ・ペティット:マタ・ボンド/ジェームズ・ボンド(007)
マタ・ハリとの恋心から生まれたボンドのひとり娘。
ダリア・ラヴィ:ザ・デトレイナー/ジェームズ・ボンド(007)
ドクター・ノアを原子爆弾で爆破することに成功した英国の諜報員。
ウディ・アレン:ジミー・ボンド/ジェームズ・ボンド(007)
ジェームズ・ボンド卿の甥であり、ドクター・ノアの別名でスメルシュの首領を務める。叔父の前では無言になってしまう。一部のシーンでは録音済みの声(ヴァレンタイン・ダイルの声)を使用している。
デボラ・カー:マクタリー夫人/ミミ
Mの未亡人になりすますが、ボンドに恋心を抱いてしまうスメルシュのエージェント。
テレンス・クーパー:クープ/ジェームズ・ボンド(007)
イギリス人のエージェント。空手の達人。魅力的な女性からの誘惑に抵抗出来るエージェントを採用するテストでマネーペニーに選ばれる。
ウィリアム・ホールデン:ランサム
CIA長官。
シャルル・ボワイエ:ル・グラン
フランス情報部。
ジョン・ヒューストン:マクタリー(M)
イギリス情報局秘密情報部(MI6)の局長。ボンドの邸宅を砲撃することを命令するが、それが原因で爆死してしまう。
クルト・カッツナー:スメルノフ(KGB)
ジョージ・ラフト:ジョージ・ラフト
ジャン・ポール・ベルモンド:フランス外人部隊
バルバラ・ブーシェ:マネーペニー
英国秘密情報MI6の秘書、元祖ミス・マネーペニーの美しい娘で、何年も前の母親と同じ立場で秘書に勤しんでいる。
ジャクリーン・ビセット:ミス・太もも
カジノ・ロワイヤルでイブリン・トレンブルを殺そうとするスメルシュのエージェント。(ジャッキー・ビセットとしてクレジットされている)
ジェエフリー・ベイルドン:Q
英国情報局秘密情報部MI6の特務装備開発課(Q課)の責任者。
ピーター・オトゥール:バグパイプ奏者(クレジットなし)
デヴィッド・マッカラム:カジノの客(クレジットなし)
アンジェリカ・ヒューストン:ミミの配下(クレジットなし)
バート・クウォーク:中国の将軍(クレジットなし)
デヴィッド・プラウズ:フランケンシュタインの怪物(クレジットなし)
映画『007/カジノロワイヤル』(1967)トリビア
◎ピーター・セラーズとオーソン・ウェルズはお互いを非常に嫌っていたため、ゲームテーブルの向こう側でお互いに向かい合うシーンの撮影は、実際には別の日に別の俳優を立てて行われました。
◎ピーター・セラーズとオーソン・ウェルズの対立は伝説的なものになっていますが、ル・シッフルの役をウェルズに提案したのはピーター・セラーズだったと伝えられています。
◎ウッディ・アレンのシーンはロンドンで撮影されました。プロデューサーは撮影の最終日を何度も遅らせたので、フラストレーションのためにアレンは撮影が終わると、直接ヒースロー空港に行き、衣装を着たままニューヨークに帰りました。
◎出演を決めた多くのスターは、この作品は原作『カジノ・ロワイヤル』に忠実なジェームズ・ボンドの映画ではなく、パロディ映画になることを知らなかったようです。
◎オーソン・ウェルズは、この映画の成功は映画のポスターなどに刺青を入れた裸の女性をデザインしたマーケティング戦略に起因したと考えています。
◎ピーター・セラーズの当時の妻ブリット・エクランドはのちに『007/黄金銃を持つ男』(1974年)でボンドガールを演じることになる。
◎この作品は製作上の問題が多発し、予算が爆発的に増加したため、のちにフェルドマンはハリウッドのパーティーでショーン・コネリーと出会った時、結局100万ドルのギャラを支払う方が安かったとコネリーに言ったと伝えられています。
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参考 映画『007/カジノロワイヤル』(1967年)Amazonプライム・ビデオ
記事作成日:2020/04/28
最終更新日:2022/03/24