「007」シリーズを成功に導いたプロデューサー、アルバート・”カビー”・ブロッコリの生涯

「007」シリーズを成功に導いたプロデューサー、アルバート・”カビー”・ブロッコリの生涯について紹介しています。

アルバート・R・ブロッコリのプロフィール

アルバート・R・ブロッコリ（Albert R. Broccoli）

本名： アルバート・ロモロ・ブロッコリ（Albert Romolo Broccoli）

愛称：”カビー”・ブロッコリ（ ‘Cubby’ Broccoli）

生年月日：1909年4月5日 – 1996年6月27日　87歳没

出身地：アメリカ合衆国ニューヨーク州クィーンズ

生い立ち

アルバート・ロモロ・ブロッコリは、1909年4月5日、ニューヨーク州ロングアイランドのイタリア系アメリカ人の家庭にふたりのこどもの末っ子として生まれました。父親ジョバンニ・ブロッコリ、母親クリスティーナ・ヴァンスはともにイタリアのカラブリア地区からの移民でした。

ブロッコリの従兄弟である“パット”・ディシッコが、人気アニメのキャラクターであるアビー・カビブル（Abie Kabibble）に体形が似ていたことから「カビブル」と呼び始めたことから、ブロッコリのニックネームが生まれました。これがやがて「カビー（Kubbie）」と短縮され、ブロッコリは「カビー（Cubby）」と呼ばれるようになりました。

“カビー”・ブロッコリの由来

従兄弟の”パット”・ディシコ

その後、一家は従兄弟のディシコの家の近く、ニューヨーク州サフォーク郡の町でロングアイランドの北岸にあるスミッシュタウンに農場を購入しました。

子供の頃のブロッコリは、夏は果物や野菜、冬はクリスマスツリーをニューヨークのホーカー（屋台）で売っていたが、その野菜はすべてブロッコリ農場で自家栽培されたものでした。

一家は南のフロリダに移ったが、父ジョバンニ・ブロッコリの死後、ブロッコリは故郷に残ることを選び、祖母と一緒にニューヨーク市のクイーンズ区アストリアに移り住み、薬局で働き、後に葬儀場で棺を作る仕事など多くの仕事の経験をしました。

”カビー”、ハリウッドへ

カビーが初めてハリウッドの雰囲気を味わったのは、従兄弟のディシコを訪ねたときでした。ディシコは、マフィアとのつながりがあると噂される映画エージェントで、ラスベガスで働いていました。

ディシコが西海岸に滞在していたとき、カビーはジェーン・ラッセルのデビュー作の西部劇『ならず者』（1943年）の撮影を見学する機会を得ました。撮影現場でブロッコリは、この映画に資金を提供していた風変わりな億万長者、ハワード・ヒューズに初めて会いました。

この時ヒューズは、監督のハワード・ホークスを解雇し、自ら指揮を執っていました。プロデューサーから監督に転身した彼を紹介されたブロッコリは、翌日には有給で下積みの雑用係として迎え入れられました。ブロッコリはアメリカが第二次世界大戦に参戦する頃には、助監督の仕事を任されるまでになっていました。

カビーとヒューズは、その後、生涯にわたる友情を育み、1941年の西部劇の撮影現場からブロッコリは映画業界へ大きく関わるようになっていきます。

20世紀を代表する億万長者、ハワード・ヒューズ

出典：https://www.tshaonline.org/handbook/entries/hughes-howard-robard-jr

「007」シリーズ第７作『007／ダイヤモンドは永遠に』に登場する億万長者ウィラード・ホワイトは、ハワード・ヒューズがモデルになっています。

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従兄弟のディシコは、ブロッコリをロサンゼルスに永住させようと説得し、寝食をともにして、ランドルフ・スコット、ケーリー・グラント、ボブ・ホープなど、ハリウッドの輝かしい時代の顔ぶれをカビーに紹介しました。しかし、カビーには経済的な問題があったため、すぐにニューヨークに戻り、美容製品のセールスマンの仕事をすることになった。

そんなカビーにハリウッド復帰のチャンスが訪れたのは、友人と一緒に馬券を賭けていた時だった。幸運にも、カビーは戸別訪問の仕事をやめて、ラスベガスに行くだけの賞金を手に入れました。

第二次世界大戦が勃発した頃、カビーは20世紀フォックスと助監督契約を結ぶことができました（”パット”・ディシコの多くの人脈の中には、映画会社の社長もいた）。

結婚と第二次大戦

1940年、ブロッコリは31歳の時に女優のグロリア・ブロンデル（女優のジョーン・ブロンデルの妹）と結婚したが、1945年に子供をもうけることなく離婚することになる。

結婚式の直後、ブロッコリは真珠湾攻撃の後、アメリカ海軍に召集された。ブロッコリは5年間（1941年から45年）軍に従軍した後、ロサンゼルスに戻り、映画界に復帰したいと考えたブロッコリは、従兄弟の”パット”・ディシコに頼み込んで、1946年のアーヴィング・アレン監督作品『Avalanche』でプロデューサーの補佐役プロダクションマネージャーの職を得ました。

この映画は、批評家や観客からの評価は平凡なものだったが、ブロッコリが戦争のために休業していた映画界に復帰するきっかけとなり、さらに重要なことには、ポーランドのプロデューサー兼監督であるアーヴィング・アレンと出会うきっかけとなりました。ブロッコリは、プロデューサーのチャールズ・K・フェルドマンをはじめとする当時の友人たちや、従兄弟の”パット”・ディシコの後押しもあって、アレンと組んで映画製作に乗り出しました。

制作会社「ワーウィックフィルム」設立

1952年にブロッコリはイギリスのロンドンに渡り、アランとともに制作会社「ワーウィックフィルム」を設立しました。

賢明なビジネスマンであるブロッコリは、英国政府から国内で大規模な予算の映画を製作する場合の助成金をうまく利用して、英国のキャストやスタッフの人件費を安く押さえて雇うことが出来た。

また、ブロッコリはハリウッドの「リトル3」と呼ばれるレーベルの1つであるコロンビアが独立した配給会社だった時代に、自分たちの映画を配給する契約を結んだ。

1953年に製作された『赤いベレー』（アメリカでは『Paratrooper（空挺部隊）』のタイトルで公開される）は、新進気鋭のイギリス人監督テレンス・ヤングを起用した戦争映画でした。

テレンス・ヤング監督は、アラン・ラッドを含むキャストを集めました。アラン・ラッドは、かつて所属していたパラマウント社との契約が終了後ワーナー・ブラザーズ、ユニバーサルやワーウィックフィルムなどとフリーランスとして契約していた。

『赤いベレー』の興行成績は800万ドル、製作費は70万ドルと、それなりの成功を収めた。

アルバート・”カビー”・ブロッコリは、すぐに新進気鋭のプロデューサーと呼ばれるようになった。

プロデューサーとして多忙な日々を

1951年、ブロッコリは2番目の妻となる歌手バディ・クラークの未亡人ネドラ・クラークと出会い、結婚しました。ネドラはブロッコリの映画製作のためにイギリスに同行しました。

ネドラは不妊症で子供ができないと言われ、2人は長男のトニーを養子に迎えました。1958年にはネドラがブロッコリの2人目の子供、娘のティナを妊娠、出産しました。

同年、ネドラは病に倒れ、合併症のために他界した。

家庭では不幸な出来事があったが、映画製作は多忙になりブロッコリは1953年から58年の間に、アラン・ラッド主演の

『零下の地獄』（1954年）、

『男の城』（1954年）、

他には『Safari』（1956年）（テレンス・ヤング監督作品）、

『Interpol』（1957年）（どちらもヴィクター・マチュア主演）など、16本の映画作品を製作しました。

ボンド映画の可能性と破産

1957年、ブロッコリは妻の看病をしながら、イアン・フレミングの「ジェームズ・ボンド」シリーズ長編第5作目「007／ロシアから愛をこめて」を再読し、「ジェームズ・ボンド」シリーズの映画化の可能性を検討していました。

ブロッコリとアレンは、小説「ジェームズ・ボンド」シリーズの映画化の可能性についての意見の相違により、ふたりの関係は緊張したものとなった。アレンは、ボンドの登場によって確立されるであろう”アクション・アドベンチャー”という新しい映画のジャンルに対するブロッコリのビジョンの可能性を否定し、既存のジャンルを支持していた。

ネドラとブロッコリは、ネドラの最期の数ヵ月間をアメリカで過ごし、その間にブロッコリはボンドの映画化の権利について問い合わせをしていました。

しかし、ボンドの映画化に興味を持っている人が他にもいることを知って失望し、しばらくの間、そのことを考えなかったという。

1959年、歴史的に重要であり優れた脚本に魅せられたブロッコリとアレンは、物議を醸した映画『The Trials of Oscar Wilde』の製作、資金提供、配給というリスクのあるプロジェクトを引き受け、1960年に公開しました。

映画『The Trials of Oscar Wilde』はゴールデングローブ賞英語圏外国語映画賞を受賞。主演のピーター・フィンチはBAFTA賞の最優秀主演男優賞や第2回モスクワ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞しました。

作品自体は高い評価を得ながらも、時代に先駆けて、同性愛の問題を偏見なく率直に描いたこの作品は、アメリカではレーティングの壁にぶつかり、一切の宣伝ができなくなり、会社は多額の投資を回収することができず、ブロッコリとアレンは不仲になり、パートナーシップは衰退し、1961年に制作会社「ワーウィックフィルム」は正式に破産清算することになりふたりの関係は解消されてしまいました。

ブロッコリとアレンの2人は1960年末にそれぞれ単独のプロデューサーに転身した。

運命的な出会い、ボンド映画製作へ

1959年、ブロッコリは、女優であり小説家でもあるダナ・ナトールと再婚しました。カビーは、ダナの10代の息子マイケル・ウィルソンを自分の子供として迎え入れ、二人で幼いバーバラ・ブロッコリを育てました。

ハリー・サルツマンの生涯についてはコチラ

芸術を愛した「007」シリーズのプロデューサー、ハリー・サルツマンの生涯

ブロッコリとアランのパートナーシップが解消し、カビーが新しいプロジェクトと新しい制作会社を必要としていたとき、カビーは友人であり英国の劇作家でもあるウォルフ・マンキウィッツと会った。その際、ウォルフはボンドに興味を持っている相手を知っていることを明かした。それは、カナダの映画プロデューサー、ハリー・サルツマンだった。

ウォルフ・マンキウィッツは、2人の友人を会わせ、ボンドの映画化の権利を奪い合う代わりに、ふたりは新しいプロダクションを設立しました。

サルツマンとブロッコリは、出会って1週間でパートナーシップを結んだと言われています。1961年にパートナーシップを結び、映画のジェームズ・ボンドの著作権と商標を管理する持ち株会社「ダンジャック：Danjaq, S.A.（現在はダンジャック,LLC）」と製作会社「イオン・プロダクション（Eon Productions Ltd.）」を設立し、すぐにプロダクションデザイナーのケン・アダムなどのスタッフや、リチャード・メイボーム、マンキウィッツなどの脚本家を集め始めました。

「ダンジャック（Danjaq）」という呼び名は、ブロッコリとサルツマンの妻のファーストネームであるDanaとJacquelineを組み合わせたものです。現在は、アルバート・R・ブロッコリの家族が所有・管理しています。また、製作会社「イオン・プロダクション（Eon Productions Ltd.）」のEonは「Everything or Nothing」を略したもの。

初のボンド映画を製作するために、ブロッコリとサルツマンは非常に大きな資金援助を必要としていました。二人は、ボンド映画に名を連ねることができそうなスタジオや配給会社を探し回りました。イアン・フレミングの小説自体が売れていましたが、ボンド映画の成功を想像するのは難しかった。

MGMの子会社であるユナイテッド・アーティスツは、最初の作品が「007／ドクター・ノオ」であることを条件（（ロケ地がジャマイカだけ、ロケット開発などの時代にあったSF設定））に、100万ドルの製作予算をバックアップすることに合意しました。

1961年に製作が開始されたボンド映画は、ブロッコリの古い同僚であるテレンス・ヤング監督が、主人公ジェームズ・ボンドを演じる若いスコットランド人俳優のショーン・コネリーの役作りのサポートしたジェームズ・ボンド映画第１作『007／ドクター・ノオ』は1962年10月6日にイギリスで公開されると大成功を収め、ブロッコリとサルツマンのボンド映画製作のパートナーシップが確立されました。

監督のテレンス・ヤング、俳優でスタントマンでもあるボブ・シモンズ、プロダクションデザイナーのケン・アダムのような才能と経験豊かなスタッフをボンド映画製作のために集めることができたのもボンド映画が成功した要因のひとつでした。

「007」映画シリーズ第１作『007／ドクター・ノオ』

映画『007／ドクター・ノオ』のあらすじとキャストは？

ボンド映画第２作『007／ロシアより愛をこめて』も大成功し、1960年代半ばには、ブロッコリは「007」シリーズにほぼすべての力を注ぐことになっていきました。

最初の9本のボンド映画で、主役のボンド役を演じる俳優がショーン・コネリー、ジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーアへと変わっていきましたが、イオン・プロダクションは大きな成功を収めました。

「007」ステージ建設へ

第10作目『007／私を愛したスパイ』は、ブロッコリ単独で製作することになりました。

この映画では、実物大の原子力潜水艦のモックアップが3つ入るスタジオが必要であり、ボンドと悪役たちはスーパータンカーの巨大なセットの中とその周辺で戦闘をします。しかし、ケン・アダムと彼のチームが夢見たセットを設置できるスタジオは、その当時ヨーロッパには存在しませんでした。

ブロッコリはこのスタジオ撮影を諦めるのではなく、時間とエネルギーを費やして調査をして、明らかに受け入れ可能な場所がなくパインウッド・スタジオにサウンドステージを建設する許可を得ました。

新たに建設された「007ステージ」（後に彼を偲んで「アルバート・R・ブロッコリ・ステージ」）と名付けられた英国バッキンガムシャー州の巨大なスタジオ空間は、ブロッコリの映画への優れた貢献のひとつです。

映画業界への功績

1981年、ブロッコリの映画製作における功績が映画芸術科学アカデミーに認められ、アーヴィング・G・タルバーグ賞を受賞しました。

出典：https://www.pinterest.fr/pin/733383120554017706/

アーヴィング・G・タルバーグ賞はアルフレッド・ヒッチコックやウォルト・ディズニーなど、素晴らしい著名なプロデューサー、監督など映画業界に顕著な足跡を残したプロデューサーに贈られる名誉ある賞です。

On this day in 1990, Bond producer Cubby Broccoli received his star on the Hollywood Walk of Fame. Find out more: https://t.co/r893UTsFnD pic.twitter.com/dawbblwPyh

— James Bond (@007) January 16, 2017

また、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに星（6910 Hollywood Blvd.）も授与されました。

1989年、ブロッコリは『007／消されたライセンス』でボンド映画のプロデューサーとしての定職を退きボンド映画第16作を完成させました。

ボンド映画とともに

1995年6月27日、アルバート・”カビー”・ブロッコリは、カリフォルニア州ロサンゼルスのビバリーヒルズの自宅で85歳の生涯を閉じました。

ブロッコリは長年心不全を患っていて、その年の初めに心臓バイパス手術を受けていました。

葬儀はローマ・カトリック教会で行われ、デズモンド・ルウェリンやティモシー・ダルトンなど、多くのボンド・ファミリーが参列しました。

1997年に公開された『007／トゥモロー・ネバー・ダイ』は、”カビー”・ブロッコリを偲んで作品が捧げられています。

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記事作成日：2022/02/22

最終更新日：2022/02/22